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大阪地方裁判所 昭和38年(行)55号 判決 1968年11月18日

原告 株式会社松山本店

被告 農林大臣

代理人 山本志郎 外三名

主文

1. 本件訴えをいずれも却下する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

第一、一次的及び二次的訴えの適法性について。

本件土地が原告主張の日時、自創法三条により、その主張の如く買収せられ被告が法七八条によりこれを管理していること、原告が本件土地の買収前の所有者であつたこと、原告が昭和三八年六月一八日被告に対しその主張の如き事由で右土地の売払申請をしたことは当事者間に争がない。原告は一次的訴えにおいて、被告は同年一一月一八日附近畿農政局長名義の回答書なる形式で原告の右申請を却下したことは違法であるとし、その取消を求め、第二次的訴えにおいて、右が却下処分でないとしても原告の右申請に対し被告が相当期間内に何らの行政処分をしないのは違法であるから、その確認を求めるという。

右両訴は法八〇条二項の売払いが行政処分であり、原告にその申請権が法令上存することを前提として原告の提起する行政訴訟であること明かである。よつて先づ法八〇条二項の売払いが行政処分であるかどうかについて考える。

(一)  法八〇条二項の売払の性質、

(1)、法八〇条一項は「農林大臣は、法七八条一項の規定により管理する土地、立木工作物又は権利(以下管理土地等と仮称する)について政令で定めるところにより(令一六条、一七条)、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないこと(以下「農業用不適の判断」と仮称する)を相当と認めた(以下「認定」という)ときは、省令で定めるとこにより(規則五〇ないし五二条)、これを売り払い、又はその所管替若しくは所属替(以下売払等という)をすることができる。「と規定し、その二項前段は「農林大臣は、前項の規定により売り払い等をすることができる土地、立木、工作物又は権利が第九条、第一四条又は四四条の規定により買収したものであるときは政令で定める場合(令一八条各号該当)を除き、買収前の所有者又はその一般承継人(以下旧所有者と略称する)に売り払わねばならない。」旨を、その後段は、この場合の売払の対価は、その買収の対価に相当する額(法所定の一定の費用を加算)とする旨を規定する。

(2)、元来、農林大臣の右管理土地等は国有財産法上は普通財産たる国有財産に属するが、なお自作農創設又は土地の農業上の利用増進という目的に供するものとして、制約をうけた財産ということができる(そのために法七八条、八〇条は自創法四六条と同様国有財産法六条の場合の例外を規定し、その管理処分機関を大蔵大臣とせず、農林大臣としたものと解せられる)。しかし、右のような財産もその後の事情の変化により農林大臣において農業用不適の判断をするのを相当と認めた場合、農林大臣は法八〇条によりその認定をし、これが二項の買収農地等に該当するものであれば、同項の規定に基きこれを買収前の旧所有者に売り払わねばならないことになつている。右規定よりすれば、売払い等の前提として農林大臣の一項の「認定」が要ること、認定により旧所有者は先買権(優先売払請求権)を取得すること明かである。

(3)、以上のとおり法八〇条二項による旧所有者への国有土地の売払は一項の認定を前提としてなされるものであり、売払の目的財産は国有財産法上の普通財産に属すること上記のとおりである。普通財産は行政財産(公用財産、公共用財産、皇室財産、企業用財産)と異り、専ら経済的価値において国の資産を構成する財産であり、いわば国の私産に属すべきものであるから、これが管理作用としての法律関係は対外的には私法上の法律行為に基くべきであるのを原則とする。ただ普通財産にあつてもその管理規律は国家公益の実現ないしは国家財政の原則に立脚し、管理処分庁の恣意を抑制し、その適正を期する必要があることは当然であるから、その貸付、交換、譲与、売払等に関し特別の制限を設け(財政法九条、国有財産法二一条以下)、この限度において普通一般の契約自由の原則はその制約をうけることを免れないが、このことは一般私法行為にあつても法の特別規定その他の事由により契約自由の原則の制限をうけることあるのと同様であつて、このことの故に一般普通財産の管理処分行為は対外的には原則として私法行為に属するとの叙上見解を左右するものではない。

(4)、しかしながら、以上は国有財産法のたてまえからみた一般原則論であつて、普通財産の処分が私法行為であるか行政処分であるかはその対象が形式的に行政財産であるか普通財産であるかの一点によつてのみ一律にこれを論断しえず、個々のものについて更に検討を要し、昭和二二年法律五三号(社寺等に無償で貸付けてある国有財産の処分に関する法律三条二項、六条)による普通財産の処分の如く行政処分と解せられる場合もある。そして、法八〇条二項による売払(その前提としてなされる一項の認定は後記のとおり売払いとは別の行政処分と解するを相当とするので、ここではしばらく別論とする)は農林大臣が所管するものであつても行政権の優越的意思に基づき公権力の行使としてなすものとみるべきものなく、またその目的物も認定の結果全く農地法上の公的制約の解除された単純な国の私産(普通財産)にすぎず、売払い行為自体は国が旧所有者との間に対等の立場で行う私法上の売買に外ならず、これを私法行為と解するに妨げとなるような規定も見当らない。

この点について、売払いが令一六条四号の如く公共用等の用途上の負担付のものについてなされることを目して売払いを行政処分とすることは出来ない。普通財産の売払の場合に用途指定がなされ(国有財産法二九条)、国に売払についての法定解除権が認めらる場合があつても、右売払を私法行為と解するの妨げとならないのと同様、法八〇条の売払いそのものもこれを私法行為と解するに妨げない。売払につき規則五〇条二項の「相当性」の制限の存することも、これを私法行為と解する妨げとならない。また一般の場合と異り、八〇条二項による売払いについては、旧所有者に対しこれをなさねばならぬこと、対価は買収対価相当額とすることの特則が設けられているが、このことも国に対する契約自由に対する制限なるに止り、売り払いを私法行為と解する妨げとなるものではない。

(5)、右のとおり法八〇条二項の売払いは国と旧所有者間の私法行為であるが、その前提なる一項の認定がいかなる性質のものであるかは更に検討の要する問題である。国有財産法上の用途廃止は行政財産たる国有財産を普通財産たらしめるための手続で、行政財産を処分するに付用途廃止を行つた上で普通財産としてこれを行うことを予定したものである。ところで法七八条による農林大臣所管の農地等は前述の如く、自作農の創設、農業上の利用増進という目的に制約せられたものであつても(この意味において行政財産的性格をもつ)、もともと国有財産法上は普通財産であるから、厳格な意味では前記用途廃止を行う必要がない。しかし右認定によつて始めて農地法上の右制約は解除されて純然たる普通財産となる。このような国有財産についての無制約普通財産化への手続としての「認定」は前記用途廃止と同様、対国民に対する関係においては国の財産管理上の準法律行為(観念の表示)であるといえよう。けだし、それは行政庁のなす優越的意思発動に基き公の権威を以つて農業用不適相当の判断をなし、その表示をする行為であるからである。しかしそれはその限りにおいては未だ行政主体たる国家の内部的意思決定ないしは行政組織内部での行為たるに止り、国民の権利義務に影響を及ぼすものではないから独立の行政処分とはいえないこというまでもない。

しかしながら、本件の如く法八〇条二項の売払いの前提として同項所定の物件についてなされる一項の認定は以上とことなり、農林大臣がこれをしたときは、法(その委任による令一七条)によりこれを旧所有者に通知又は公告(以下単に通知という)をしなければならないとされ、更に右通知を受けたときは旧所有者は当該物件について先買権を取得するものと解される。してみれば右認定は農林大臣が法に認められた優越的地位に基づき、法の執行としする権力的意思活動すなわち、抗告訴訟の対象たる行政庁の処分というべく、行政庁の内心的意思決定や、行政組織内部における意思決定に止るものでなく、法により直接国民の権利義務に変動を生じさせる準法律行為たる行政行為といわねばならぬ。従つて認定の独立処分性を否定しこれを後続の私法行為たる売払いに吸収させ、或はこれを売払に結合せしめて売払の手続上の一段階となし、かかる一連の手続全体としての売払を観念し右売払に処分性を認めようとする見解は相当でない。

因みに令一六条は法八〇条一項の規定をうけて農林大臣が同項に基づく認定をすることができる場合についてこれを限定的に定めているので、買収された農地等の旧所有者が法八〇条二項の規定により売払を受けることができるのは令一六条各号(買収農地については四号、すなわち公用公共用又は国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急の必要があり且つその用に供されることが確実な土地等)に該当する場合に限られる。(イ)原告は認定についての右令一六条は例示であり、これを制限的に解すべきでないというが、売払うべき土地等の認定について法八〇条一項はこれを政令に委任し、令一六条で「左に掲げる土地等に限り」法八〇条一項の認定をすることができる旨明文を設けている以上右令一六条各号を例示と解すべき根拠はない。(ロ)原告は更に、右政令によつて法に認めた認定を制限するものとすれば右は憲法七三条六号所定の行政立法の限界をこえたものであるというが、右政令は法律の委任にもとづくものであつて、憲法七三条六号にいう「法律の規定を実施するため」のいわゆる執行命令と異るから右違憲論は採用できない。(ハ)原告は旧所有者の法八〇条二項の売払請求権は憲法二九条により直接認められたもので、旧地主は認定売払前においても買収により潜在的所有権を有するものの如く主張するが、法八〇条二項が旧所有者に認めた先買権は憲法二九条三項の解釈上当然旧所有者に保障せられたものではなく、国民感情を尊重し旧所有者に公用廃止等に伴う収用土地等の再取得権を認めるか否か、また認めるとしてもその内容をいかに規整するかは専ら立法政策の問題であり、法律の規定をまたずに旧所有者に憲法上当然認められた権利とはいえない(自創法には法八〇条二項該当規定はなかつた)。従つて、土地収用法(一〇六条)に認められた旧地主の買受権(買戻権)が収用と同時に発生し、事業上不用、不供用等の客観的事実の発生により、当然その権利を行使しうるのと異り、法八〇条二項の先買権は買収と同時に発生するものでなく、一項の農林大臣の認定処分によつて具体的権利として発生し、行使しうるものでその行使(売払申込)により農林大臣は同人に対しその承諾すなわち売払(売払通知)をしなければならないことになる。してみれば、先買権は買戻権の如く形成権でなく、売払についての承諾請求権たる性質を有するものと解するを相当とする。

(二)  原告は売払いは行政処分であると主張するが、以上のとおり売払いは私法行為と解するの外なくこれを抗告訴訟の対象たる行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為とみる余地はない。従つて原告にこれが申請権も法律上ありえない(旧所有者は令一六条四号該当地については、売払いの前提たる認定申請権を有するものと解しうるに止る)。そして成立に争いのない甲三号証回答書はたかだか売払いの前提たる認定のないことによる売払の申込に対する不承諾の意思表示にすぎず、従つて右売払いが拒否されたとしても、右拒否か取消訴訟の対象となる行政処分と解する余地もない。してみれば、結局原告の一次的、訴えは対象処分を欠く点において、二次的訴えも原告に法令に基く売払いの申請権なく、被告においてもこれに応答すべき何らの処分もありえないからいずれも不適法たるを免れない。因みに原告主張自体及び本訴の経過、弁論の全趣旨より右各訴えが「認定」に関する訴えを含むものと解する余地はないから、これが判断はしない。

第二、三次的訴えの適法性について。

一、(一)、前第一項記載のとおり法八〇条二項の売払いの前提としての認定は行政処分であるが、原告は右認定義務の確認を求めており、抗告訴訟が権利救済を本来の目的とする制度である点若くは行訴法が右訴訟を「公権力の行使に関する不服の訴え」とのみ規定し公権力行使後に限らぬが如くみえる点等より例外的に義務確認訴訟が無名抗告訴訟として許されるとの考之方もあるので以下右訴訟の許否につき考える。

(二)、先ず、抗告訴訟の典型である処分、裁決の取消しの訴え(行訴法三条2項)の対象とされる行政庁の処分要件に関する一次的判断権との関連で本件問題の義務確認訴訟を含め各種の訴えの特質をみる。即ち、行訴法三条2乃至5項を通覧すれば明らかな如く、法定抗告訴訟(右2乃至5項の各訴訟)はいずれも行政庁の個別的行政処分の要件に関する一次的判断権の行使を前提として、その行使態容〔及び3項の場合は処分等、行政庁の処分、その他公権力の行使に当る行為(同2項)及び裁決(同3項括弧内に所謂裁決を意味する)を含む意味において以下用いる〕の形をとる場合。4項の存否及び効力の有無訴訟では問題となる処分等の要件(前者では、成立要件、後者では効力要件)に関する肯定的又は否定的判断の表示態度として表われる場合。5項の場合は、何らかの処分等をしなければならぬという応答義務に対する否定的不作為態度として表われる場合。に対応して選定された個別的訴訟における訴訟物(2・3項では違法性そのもの。5項では前記応答義務に対する態度の違法性そのものなど)に対し判断を求めることにより、既になされた一次的判断権の行使そのものの違法性を攻撃して司法による事後審査を求めるところに共通の特質を有するということができる。これに比し、行政庁に対する処分等の義務確認訴訟は、いずれも行政庁の一次的判断(個別的処分等に関する)権の行使を前提としてその判断を攻撃するものではなく、将来の新処分等に関する新たな一次的判断権の行使義務を確認し、しかも右なされるべき新たな一次的判断の内容を司法権において予め提示してなす訴訟であるところに特質を有し、前記法定抗告訴訟と対比し、行政権による利益侵害の救済手段としては事後、事前の差違に過ぎないとしても、行政庁の一次的判断権の行使に対する攻撃でないという点で法律的性質を全く異にするということができる。このことは処分義務確認訴訟が一旦なされた行政庁の個別的一次的判断権の行使に対し前記の如き法定抗告訴訟により争うにつきこれと関連して右判断権行使の結果生じた利益侵害状態の是正回復のためになさる場合であつても同様である。

(三)、ところで行訴法三条1項と2乃至5項とを対比すれば前記法定抗告訴訟の外に無名抗告訴訟が存することは明らかで行訴法上他に前記義務確認訴訟を抗告訴訟以外の訴訟として認めた規定もないので例外的にしろ義務確認訴訟が許されるとすれば無名抗告訴訟として許されることとなるが、それは前記のとおり行政庁の一次的判断権の行使を前提としてこれを争うものでないために、(1)一般に承認されている行政庁に対する処分等の要件に関する一次的判断権留保の原則に反しないか、(2)無名抗告訴訟も実定法上抗告訴訟の一種として、その共通特質、就中右一次的判断権に関連する共通の特質をそなえた限度内のものか、の二点が問題となるので、以下この点についてその許否を検討する。

(1)、現行憲法は、司法権には法の宣言による具体的争訟解決の使命を、行政権には最高機関定立にかかる法律の規律による全体としての公益目的実現の使命を、各与え、右両権の分立はあくまで尊重さるべきことを思想背景とし、これを受け法律は右各使命達成に適した、前者には機関の独立、弁論主義手続構造を、後者には組織の一体性、階層性等能率的組織構造を夫々与え、従つて右行政のよるべき法規は先づ行政庁に対する行為規範性を有する。以上の処よりすれば必然的に余程の事がない限り行政権の発動ともいうべき処分等については形式的に各個の処分についてその処分要件に関する判断権は行政権に一次的に留保されるべきというべく、司法審査は必然的に右留保された一次的判断権の行使後に行政権の行使した判断の適否を争う事後審査に止まるを原則とすべきことが要求され、従つて前記の如き義務確認訴訟は右分立尊重にもとり、原則として許されないというべきである。しかし右訴訟を例外的に許すか否かは立法政策に属するか、行訴法三条の解釈として通常論せられるところの右訴訟が例外的に許されるとされる場合には、後記(二)の事後審査の限界内の違法確認訴訟で目的を達することができ、反面右義務確認等訴訟を許したところで新処分等を形成すること若くは強制執行までは許されないことは異論のないところで前記憲法の分立思想と行政法規の行為規範としての性質をこえてまでこれを許すにしては実効性少なくあえて、右例外訴訟を許す程の必要性はさして大きくない。

(2)、次に行訴法三条の抗告訴訟全般の共通の特質をさぐるに、法定抗告訴訟が既になされた行政庁の形式的個別的な一次的判断権の行使を前提とし、その適否を事後に争う事後審査性を共通点とすることは前記のとおりであり、更に、(イ)もともと「抗告訴訟」の名称は沿革的に前記法定抗告訴訟の特質たる事後審査性(処分等を一審裁判の如くみて、これを争う手続のようにとらえる)を表わすものであつた。(ロ)行訴法三条5項は、応答義務が一義的に明白な多くの場合においてさえ、敢えてとろうとすればとりえないでもなくむしろその方が紛争解決に抜本的とみられる、行政庁の不作為に関連する応答(新処分といえる)義務確認等将来に予定された応答処分についての行政庁の一次的判断権行使義務自体を対象とする訴訟類型をとらず、右不作為の態度のうちに既に示されている行政庁の一次的判断権行使の適否を争う事後審査の形態にとどめている。尚右5項の訴えに関連して応答義務自体の確認等が別に無名抗告訴訟として許されるとみられないことは5項の立法経過、及び同訴訟制度を空文化する結果を生じることから明らかである。(ハ)行訴法は処分等の「取消」又は「無効確認」の判決があつた場合の事後処理に関し、その善後措置として行政庁がなすべき処分等が一義的に判然としている場合でも右取消等事後審査訴訟に関連して右一義的に明らかな将来の処分等につき裁判所が義務確認又は給付等の判決をなしうる点につき明文をおかず、かえつて右事後処理については全抗告訴訟に準用される(同法三八条一項)べき同法三三条において判決の拘束力に任ね、右事後処理として行政庁が新たに将来なすべき処分を例示する等して裁判所がなすべき司法審査としては既になされた処分等の事後審査の限度たる取消等の判決に止め、その拘束力を処分関係行政庁に課しているに止まる。尚右事後処理として一義的に明白な新処分に限り、その義務確認等が無名抗告訴訟として許されるとみることは右拘束力の規定を空文化する結果を生じ疑問である。

以上法定抗告訴訟の特質(一の(二))及び前記(イ)に加ふるに(ロ)、(ハ)点より逆推理すれば行訴法は少くとも三条の抗告訴訟全般に関する限りにおいて、行政処分等の要件に関する判断権は、形式的個別的処分毎にしかも常に第一次的に行政庁に留保されるべきことを前提として、従つて右のような一次的判断権の行使が何らかの形でなされたことを前提としてその事後的審査として右判断の適法違法を争うことを以つて抗告訴訟全般の共通の特質とするものと解するを相当とする。そうだとすると、無名抗告訴訟も抗告訴訟として右の特質を満すものでなければ認められないというべく、たとえ一義的に処分義務が肯定される場合でも、前記の如く事後審査でない処分等の義務確認訴訟は認められないものというべきである。

(四)、以上のとおりであるから前(二)項の如き法律的性質を有する処分等の義務確認訴訟は前(三)項(1)(2)のところよりして許されず、本件三次的訴えはこの点において不適法という外ない。

二、(一)、ところで無名抗告訴訟としていかなる訴訟が許されるかにみるに、将来なすべき処分等につき、行政庁の一次的判断権が未た具体的処分等の形では行使されていないが既に黙示的に(態度、過去の実績等で)行使(判断が示)されており、そのとおりの具体的処分等に発展しようとしており(処分等をし又はしない結果となる)、国民の権利利益が侵害されようとしている場合には何らかの救済手段が考えられるべきである。しかし、右手段も事後審査の共通要件を具備せねばならない以上、不作為の違法確認の訴における如く抽象的処分(応答)に関するものであればともかく、具体的な将来の処分等に関するものだけにより一層前記行政庁に対する一次的判断権の留保の要請の点を考慮せねばならない。

かくて以上の処よりして前記の救済手段として考えられる無名抗告訴訟の訴訟要件、訴訟類型は、その必要性、目的に対応して次のように解される。即ち先ずその訴訟要件は、(イ)当該将来の処分等の要件が法規上一義的に明白に(主体、客体、内容、方法、時期等すべての点で)規定されている場合において、(ロ)右要件に関する行政庁の一次的判断が既に予め態度として示され、処分等に発展し又はしないことについて相当の確実性と急迫性が存し(従つて直接国民に対する処分等としての存在は未だない段階である)、(ハ)右処分等に発展し又はしなかつた場合原告に回復しがたい性質の損害が生じるに拘らず、(ニ)他に救済手段がないこと。以上のとおりで、右要件具備のとき始めて無名抗告訴訟が許されることとなるが、その場合許される請求(訴訟類型)は右態度で示された一次的判断の違法確認(即ちその判決主文は「かくかくの処分をしようとしている(又は、していない)ことは違法であることを確認する」となる)に限られ、それで十分であるというべきである。

以上の如く無名抗告訴訟として必要性の認められるのは前記要件のもとに許される違法確認訴訟に限られるという外ない。

(二)、これを本件についてみるに、本訴のような義務確認訴訟は前記のとおり許される余地なく、かりに本訴を善解して前記違法確認訴訟を含むとしても本件の如く買収農地についての認定は法八〇条一項令一六条によりなされるもので、法八〇条一項は認定につき「農林大臣は……政令で定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたとき」にと規定し、令一六条四号は「公用、公共用又は国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急の必要があり且つその用に供されることが確実な土地等」と規定し、右認定処分がき束処分としても農林大臣が認定に際し全く一義的に明白にこれをなすべきことを規定したものとはいえないから前記(6)の訴訟要件(イ)を欠くこと明らかでこれまた不適法という外ない。

第三、以上の次第で爾余の判断をなすまでもなく本件訴えはいずれも不適法というべきであるからすべて却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 増田幸次郎 杉本昭一 古川正孝)

物権目録(省略)

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